治療前
治療後
基本情報 |
58歳・女性 |
主訴:前歯が腫れた |
全身的既往歴:特記事項なし |
歯科的既往歴:左上前歯には8年ほど前にインプラント治療を行った。
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治療に対する希望:治療期間中も前歯があるように(入れ歯でなく)してほしい。
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上の前歯(右上2番・右上1番・左上1番)には不適合なかぶせ物が装着され、写真には写っていませんが歯ぐきが腫れていました。また、下の前歯には多量の歯石が認められました。
初診時レントゲン写真
前歯のレントゲン写真です。根の先が黒く、感染が広がっていることが確認されました。かぶせ物が装着してある3本は歯根に長くて太い金属(メタルコア)が装着されていました。過去に歯根端切除術をされた部位が再発した状態です。
治療計画
根が膿んでいる3本の前歯は保存が困難な状態と判断し、抜歯することとしました。治療方針として、抜歯するのは3本ですが、インプラントを2本埋入し、インプラントのブリッジを製作することとしました。見た目を揃えるためには、既存のインプラント(左上2番)のかぶせ物のやり直しを提案しましたが、ご希望されませんでした。
インプラント治療では全ての症例でインプラントの埋入位置のシミュレーションを専用のソフトを用いて行います。
本症例では「治療中でも前歯がある状態」を達成するために、抜歯即時インプラント埋入で治療を進めることとしました。さらに、「前歯がある状態」にするため、手術時にインプラントに仮歯を装着する、即時負荷という手法としました。
通常よりも長いインプラントを利用することで上記の達成が可能だと診断をしました。
手術
不適合なかぶせ物を除去した状態です。
3本の抜歯をしました。歯を支えている骨や歯ぐきを傷つけないよう慎重な手技が求められます。
シミュレーション通りの位置に埋入するため、サージカルガイドを用いてインプラントを埋入しました。
インプラントと抜歯した部位との隙間、インプラントを埋入していない部位(右上1番)には牛骨由来の骨補填剤を填入しました。
骨補填剤を填入しても、傷の治りとともに少なからず唇側は凹むことが考えられました。それを防ぐためには歯ぐきの移植(CTG)が必要となりますが、そこまでの審美性を求められなかったので、本症例では行わないこととなりました。
仮歯を製作するためのパーツをインプラントに装着した状態です。
あらかじめ製作しておいた仮歯を用いて、製作作業を進めていきます。
手術当日に製作した仮歯です。
インプラントと骨が結合するには時間がかかりますが、その間に強い力が加わるとインプラントがグラついてしまう危険性があります。そのため、仮歯はやや短め、少し前に位置させて、噛み合わないようにしました。あくまでも見た目のための仮歯であり、噛むためのものではありません。
仮歯はインプラントにネジで止めるタイプのため、裏側に穴が空いていますが、ここは仮の蓋で塞ぎます。
インプラント手術後の埋入位置の評価を行いました。
サージカルガイドを用いたこともあり、隣の歯やインプラントと位置関係、また唇側の骨の厚さ(この厚さが将来的に歯ぐきの安定性を左右します)ともに問題がなく埋入することができました。
手術後2週間
まだ手術から日が浅いこともあり、若干の炎症はあるものの、大きな問題ではないと判断しました。
手術後1.5ヶ月

手術後2週間と比較すると、仮歯と歯ぐきの間に隙間があります。この間、仮歯は一度も外さず、調整もしていません。
やはり、抜歯をすると歯ぐきの形は変化してしまいます。
手術後4ヶ月
レントゲンでインプラントの状態を確認しましたが、問題はありませんでしたので、手術後初めて仮歯を外しました。
骨に取り込まれなかった骨補填剤が歯ぐきの中に認められたので、それらは除去し、仮歯の形を修正しました。
この状態で患者さんから審美的にも了解が得られたため、最終的な上部構造物を製作することとしました。
製作した上部構造物(ジルコニアボンド ブリッジ)
上部構造物は仮歯と同様にネジ止めタイプとしました。
このタイプはセメントを使用しないため、取り残しによる歯ぐきの炎症が引き起こされることがありません。
上部構造物装着
口腔内に上部構造物を装着した状態です。
患者さんからは治療の期間や仕上がりに対して、大変ご満足いただくことができました。
治療後4年9ヶ月
治療後4年9ヶ月、メインテナンスにいらしていただいた際に撮影した口腔内写真です。
メインテナンスは3ヶ月ごとですが、4年以上経過しても歯ぐきに変化はなく、綺麗な状態を維持できています。
今回治療したインプラントブリッジには金属を使用していないため、歯ぐきの色も綺麗ですが、左上2番のインプラントのかぶせ物には金属が使用されているため、その影響により歯ぐきがやや暗くなっています。
本症例のまとめ
歯を抜くと同時にインプラントを埋入する(抜歯即時埋入)だけではなく、その場で仮歯まで装着する方法(即時負荷)で治療を行いました。この方法により、治療期間が短縮され、また治療期間中に取り外しの入れ歯を使用することを回避できました。
ただし、この方法の成功には骨や噛み合わせの条件が良いだけでなく、患者さんの協力がとても重要です。
抜歯即時埋入や即時負荷は確立された治療方法にはなりますが、適応を見誤るとかえって期間が延びてしまいます。治療期間を短くすることは大事なことですが、もっと大事なことは治療後にトラブルなくインプラントが機能することです。治療方法については担当医とよく相談をしましょう。
本症例のリスク
- 通常のインプラント治療よりも手術時での感染リスクが高く、骨との結合に支障をきたすことがあります。
- 初期固定が不十分な場合、手術当日に仮歯を装着すること(即時負荷)ができないことがあります。
- 即時負荷した仮歯に強い力が加わるとインプラントが骨と結合しないことがあります。
- 抜歯の影響で想定よりも歯ぐきの形が変化し、追加の手術が必要になることがあります。
- ジルコニアボンドのセラミック部分は稀にかけることがあります。
本症例の費用
インプラント診断料 |
55,000円 |
インプラント埋入料 |
165,000円×2 |
抜歯即時加算 |
110,000円×2 |
サージカルガイド |
66,000円 |
静脈内鎮静法 |
77,000円 |
仮歯代 |
110,000円 |
上部構造物(ジルコニアボンド) |
インプラント部 242,000円×2 ポンティック部(ダミー部分)176,000円 |
合計 |
1,518,000円 2021年1月時点 |
インプラント
抜歯即時インプラント
ジルコニア
虫歯治療