お口の中には約300種類の細菌がいて、歯垢(プラーク)1mg中には数億〜10億個もの細菌が存在しています。
歯磨きをした後でもお口の中にはたくさんの細菌がいます。
数でいったら肛門と同じくらいですから、お口の中は想像以上に汚いんです。
歯の移植は外科的な手術ですから、感染したら失敗です。
そこで大切なことは移植を行う前に歯石や歯垢を徹底的に取り去ることが成功への第一歩です。
移植を成功させるにはドナーとなる歯を傷つけずに抜くことです。
歯根には移植を成功に導く細胞(歯根膜細胞)が付着していますが、とても繊細なため愛護的に抜歯をしなければ、それらの細胞は歯根から剥がれ落ちてしまいます。
抜歯といっても難易度は歯によって異なります。
つまり、抜きやすい歯ほど移植には適していると言えます。
移植に適さない歯は歯根肥大(歯根の先が膨らんでいる)・複根歯(歯根が複数ある)・歯根湾曲(歯根が曲がっている)が挙げられます。
レントゲン写真だけでは判断できないことが多いため、CTを撮影して3次元的に移植歯の形態を精査します。
移植後に移植歯が生着したら噛める状態にならなければ成功とは言えません。
移植歯が小さすぎれば噛む力に耐えられないでしょう。
一方、大きすぎたらどうでしょうか?
移植先のスペースより移植歯の方が大きかったら、移植歯を植え込むことができません。
その場合には移植歯を削って小さくしたり、移植先の周りの歯を動かしてスペースを確保することがあります。
CTを撮影し、移植先の広さや移植歯の大きさを計測することがとても重要です。
抜歯を余儀なくされた歯では歯の中だけではなく、顎の骨の方まで細菌が侵入していることがあります。抜歯時に不良肉芽(細菌に侵された肉)を徹底的に除去します。
ただし、感染が強い場合には「取り切った!」と思っていても取り残していたり、治癒が遅くなることがあります。
その場合には抜歯と同時に移植(即時型移植)は行わず、抜歯部位の治癒が起こっってから移植を行います(遅延型移植)。
遅延型移植の場合、歯を抜いてから2ヶ月以内に歯ぐきの治りを待ってから移植をします。
即時型移植の方が治療期間も短いですし、手術が1回のため患者様の負担は少なくなります。
なので、この方法を選択したくなりますが、良好な結果を得るためには遅延型移植で対応しなければなりません。
移植をする際に顎の骨の中には触れてはいけない場所があります。
下顎では下顎管(歯の神経や血管が通っている管)やオトガイ孔(歯の神経が出てくる穴)、上顎では上顎洞(副鼻腔の一部)が代表的なものです。
歯の神経を損傷すれば麻痺が、血管を損傷すれば大出血が生じます。
手術で触れてはいけない危険部位を正確に把握しなければ重大な事故につながります。
安心・安全に治療を進めるためには正確な診断が求められます。
移植歯の位置付け方により移植の成否が決まると言っても過言ではありません。
以下に理想的な移植歯の位置付けを列挙します。
移植した後、移植歯の周りでは新たな骨や歯根膜が作られます。
その間、移植歯に強い力がかかったり、グラグラ動かされると新しい組織が作られず、移植歯が生着せず、移植が失敗することになります。
骨折をした後にギプスをして、折れた骨がくっつくのを待つのと同じ原理です。
移植歯の固定は隣の歯と接着材でくっつけたり、歯ぐきを固定元に糸で固定する方法があります。
固定の期間は2ヶ月ほどになりますが、状況によって前後することがあります。
術後の痛みや腫れと経過の良好さは必ずしも連動しません。
痛みがないから、うまくいっているとは限りません。痛みがなくても注意事項はしっかりと守ってください。
移植を成功させる注意事項として、
保険診療で認められている移植は親知らずの即時型移植のみです。
親知らず以外の移植は保険適応外です。
3割負担の方の場合、自己負担額はおおよそ¥10,000です。ただし、移植歯の抜歯や術前の診査項目によって上下することがあります。
即時型移植とは残せない歯の抜歯と移植歯である親知らずの移植を同日に行う方法です。
親知らず以外の移植は保険診療では認められていません。
以下の場合は即時型移植の成功率が低くなりますので、別日での移植(遅延型移植)の適応となります。
移植歯が生着した後に必要になる治療があり、移植の費用とは別途費用がかかります。
根の治療:移植歯は一度抜歯するため、歯の歯の神経が壊死します。壊死した歯の神経を取り去らなければいけません。
ただし、つめ物・かぶせ物の処置:移植歯は最初からしっかり噛める位置には移植しません。
移植歯は大きさや形が移植先に適することが少ないため、そのままではうまく噛むことができません。
よって、根の治療が終わったら、移植歯を削り、つめ物やかぶせ物をする必要があります。
矯正治療:矯正治療で歯を移動させる方法もあります。ただ、移植歯の形や大きさやによっては適応でない場合があります。
保険治療と自費治療を混合した混合治療は国の方針により認めらていません。
よって、保険適応外で移植を行った場合、その後の根の治療やつめ物・かぶせ物の処置にも保険は適応できません。
移植の失敗は3種類に大別されます。
「移植した歯は長持ちするの?」とよく聞かれますが、移植歯の状態やかみ合わせ、清掃状態によって予後は変わります。
一般的には2〜10年と言われますが、もっと短い場合もあれば、長い場合もありますので、明確な答えはありません。
移植は術者の技量によって結果に大きな差が出る治療方法です。
そして、治療が終了し、噛めるようになってからが最も大切です。
問題が生じたとしても、定期検診に行くことで早期発見・早期対応が可能となります。
3〜6ヶ月に一度は定期検診に行きましょう。
移植歯が抜けた状況にもよりますが、一般的な欠損補綴(入れ歯、ブリッジ、インプラント)により治療をします。
それぞれの治療方法にはメリット・デメリットがありますので、ご自身が納得できる説明をしてもらいましょう。
もし、移植できる歯があれば、移植に再チャレンジすることも一案です。
「何もしない」という選択肢もありますが、他の歯への影響を考えるとお勧めできる方法ではありません。
担当の先生とよく話し合うことが大切です。
自身の歯を最大限に利用する魅力的な治療方法ではありますが、歯を失わなければ移植をする必要はありません。
そのためにも定期的に歯のチェックをして、健康な状態を維持していくことが最も大切なことです。