「親知らずを抜くために大学病院を紹介された」と耳にすることがありますが、その先生は何を根拠に「自分では抜けない」と判断されたのでしょうか?
そもそも親知らずは抜かなければいけないものなの?と思われる患者さまも多数いらっしゃるでしょう。ここでは、そんな疑問にお答えします。
親知らずは抜かなければいかないのか?痛くもないのに、あえて痛いことはしたくないですよね。親知らずだから抜かなければいけないわけではありませんが、抜かないことで起こりうるリスクを知る必要があります。
智歯周囲炎→智歯(親知らず)周りの歯ぐきが腫れることがあります。特に完全に生えきっていない状態や斜めになっている親知らずでは智歯周囲炎のリスクが高くなります。
第2大臼歯の歯周病→親知らずの存在により手前の歯(第2大臼歯)を支えている骨が吸収してしまい、局所的に歯周病が進行してしまうことがあります。
親知らずの下まで骨が吸収しています。親知らずを抜いた後に第2大臼歯に深い歯周ポケットが残る可能性があります。
親知らず自体がむし歯になることもありますが、第2大臼歯がむし歯になることがあります。厄介なのは、第2大臼歯の歯根がむし歯になってしまった時です。場合によっては、むし歯の治療が困難なことがあります。
斜めに生えている親知らずが第2大臼歯の歯根に食い込んでいくことがあります。この場合、第2大臼歯の治療は困難なため、第2大臼歯を抜く必要が生じます。
親知らずが手前の第2大臼歯の歯根に食い込んでいます。このような状態だと第2大臼歯を残すことは困難です。
妊娠中はホルモンのバランスにより歯ぐきが腫れやすい時期になります。妊娠中に智歯周囲炎になってしまったら、母体に負担を考慮し、抜歯を回避するのであれば、抗生物質と鎮痛薬を服用していただくことになります。
症状がないからと放置していても、80代になってトラブルが生じることもあります。高齢者では基礎疾患などで抜歯という外科処置が困難なことがあります。また、加齢とともに骨は硬くなり、また親知らずは骨と癒着する頻度が高くなります。つまり、高齢者の親知らずの方が抜歯の難易度は上がるのです。
抜歯は外科手術ですからリスクがあります。上述の「抜かない」リスクと「抜く」リスクを天秤にかける必要があります。
親知らずを抜くときは歯ぐきと切ったり、骨を削ったりしますので、腫れる可能性があります。術後2日目くらいが腫れのピークとなり、1週間ほどで腫れは治ります。
腫れと同様に外科手術に痛みは付きものです。ただ、基本的には鎮痛剤で抑えることが可能です。
親知らず抜歯後の腫れや痛み下顎の親知らずは骨の中にある神経と近接している場合があります。そのような症例では神経の損傷や術後に知覚麻痺が生じることがあります。知覚麻痺では下唇付近がずっと麻酔がかかっているような感じが残ることがあります。
レントゲンの右側真ん中から斜めに見れる黒い筋が神経・血管が存在する管です。親知らずの根の先と接している状態です。
親知らず抜歯後の麻痺やしびれ骨を大きく削る必要がある症例や、普段からアザができやすい方では内出血により、アザができることがあります。時間とともに消えていきますが、1週間以上かかることもあります。
抜いた場所が感染を起こし、ズキズキと痛むことがあります。ドライソケットは抜歯直後ではなく、しばらく経ってから痛みが増強してくることがほとんど
です。
難易度を判定するためには正確な診断が必要です。そのため、通常のレントゲンだけではなく、CTを撮影することを推奨されています。また、CTを撮影することで、どの方向に力を加えるか、どれくらい骨を削る必要があるかなど具体的な術式決定をすることができます。そのため、当院では親知らず抜歯に際してCT撮影は必須だと考えています。
真っ直ぐなのか、斜め向きなのか、真横を向いているのかを確認します。難易度は真っ直ぐ<斜め向き<真横です。
親知らずにはタコの足のように歯根が複数あり、曲がっているものもあります。
骨の中深くに埋まっている親知らずほど難易度は高くなります。
真っ直ぐの向きですが、とても深いところに埋まっています。
親知らずと神経が触れている場合など近接している場合は神経を損傷しないよう注意が必要です。
不用意に力を加えると抜いた親知らずが副鼻腔である上顎洞の中に入り込むことがあります。
レントゲンの黒い部分が上顎洞です。親知らずが上顎洞スレスレのところに埋まっています。
手前の第2大臼歯が後ろに倒れ込むような生え方をしていると難易度は高くなります。
下顎骨の形と口の奥行きには関係があります。口の奥行きが狭い場合、器具をスムーズに入れにくくなりますので抜歯の難易度は高くなります。
レントゲン機器の新しさとかではありません。親知らずと骨との境目が見にくい症例では、それらが癒着している可能性が
あります。
これらは画像により診断することですが、それ以外には全身状態・基礎疾患・年齢・服薬状況・口の開きやすさと言ったことも考慮して、抜歯の難易度を総合的に判断します。
親知らずに限ったことではありませんが、どの治療に対してもしっかりと検査を行い、その上で診断をし、治療方針を決定するのは医療として当然のことです。その結果、自分の手に負えるものか、紹介が必要なものなのかを判断します。「そこに親知らずがあるから抜く!」ということではないのです。
親知らずの抜歯は怖いと思います。だからこそ、抜くリスクと抜かないリスク、また抜歯の難易度をしっかりと説明してもらいましょう。
親知らず抜歯について