歯の移植症例
現在の治療費と異なる場合がございます。最新の治療費は料金表をご確認ください。
基本情報 |
30代女性 |
主訴:前歯がグラグラする |
全身的既往歴:特記事項なし |
歯の喪失理由:歯周病 |
術前口腔内写真

右上の犬歯は噛むたびに歯がグラグラと動かされる状態でした。失っている上の前歯と左下奥歯は歯周病が原因で数年前に抜歯されたとのことでした。
初診時検査結果

4mm以上の歯周ポケットを赤字で示していますが、多くの歯で歯周病が進行しています。また、検査をすると主訴である前歯以外の歯にも動揺が認められました。
診療プラン 1

積極的な外科的な治療を避け、上顎と下顎の両方に部分入れ歯を作る治療計画です。Hopeless:残すことが難しい歯、Questionable:治療次第では残すことが可能かもしれないが確定できない歯になります。咬合三角で崩壊レベル、赤色の危険ゾーンは治療が難しいとされるゾーンになります。歯と歯が噛み合う場所が減ってしまい、この治療計画ですと、入れ歯を安定させていくことが難しくなることが予想されました。
治療プラン 2

親知らずの移植、歯ぐきの再生療法といった外科処置を取り入れ、上顎のみ部分入れ歯を作る治療計画です。移植により歯と歯の噛み合う部分が作れるため、咬合三角は欠陥レベル、黄色の要注意ゾーンで食い止めることができます。また、下顎の前歯部は歯が歯周病で歯が移動してしまっているので、部分矯正治療を行います。
この治療方針におけるリスクとデメリット
- 大掛かりな外科手術が必要になる
- 移植、再生療法、部分矯正治療は自費診療になる(この当時は残せない歯を抜くのと同日に親知らずの移植を行うことのみ保険適用でした)
- 治療の期間が長くなる
Treatment plan
● 歯周初期治療・上顎治療用部分入れ歯の製作
● 抜歯(右上763、左上3、右下7、左下78番)
● 歯冠切断(左上1番)
● 歯周病の再評価
● 移植:右下の親知らずを左下6番部へ、右上の親知らずを右上6番部へ
● 再生療法:左下3番
● 下顎前歯部部分矯正
● 最終補綴(クラウン、部分入れ歯)
CT検査時の画像
右下親知らず(CT)

親知らずの大きさを計測します。
左下6番部(CT)

移植先の骨の厚み、神経までの距離を計測し、移植の手術計画を立てます。
左上8番部(CT)

親知らずの大きさを計測します。
左上6番部(CT)

移植先の骨の状態、上顎洞までの距離を計測して、移植の手術計画を立てます。
歯周病の再生治療 EMD
歯周病の再生治療

歯ぐきを開けると歯を支える骨が大きく失われていました。歯石などの汚れを除去し、歯根面にエムドゲインを塗り、人工骨を詰めて歯ぐきを縫い合わせました。歯に揺れがありますので、ワイヤーで固定をして手術は終了です。
再生療法のリスク
- 計画通りのレベルまで骨が再生されない場合があります。
- 術後は腫れや痛みを伴います。
- 術後感染が起こると術前以上に骨が失われる可能性があります。
- ワイヤーの固定が外れると骨の再生が失敗することがあります。
移植
右下親知らずを左下6番部へ移植

まず、左下6番部を切開・剥離し、親知らずを移植できるよう下顎の骨を削りました。
その後、歯根膜が剥がれないように慎重に親知らずを抜歯し、骨を削った部位に挿入します。
問題ないことを確認し、縫合と親知らずの固定をして手術は終了です。
手術終了後はレントゲンで状態を確認します。術後3週間で安定したことを確認し、根の治療を行い、仮歯を装着しました。
左上親知らずを右上6番部へ移植

切開・剥離をした後に、右上6番部に親知らずが移植できるように上顎の骨を削りました。
慎重に親知らずを抜歯したところ、歯石が付着していたため、それを除去し、骨を削った部位に挿入しました。
位置付けが問題ないことを確認し、縫合にて移植した親知らずを固定し、手術は終了です。
術後にレントゲンを撮影し、3週間後より根の治療を開始しました。
移植のリスク
- 外科手術が必要なため、術後に腫れや出血、痛み、知覚麻痺が生じることがあります。
- 移植する歯の抜歯、移植先と2箇所の手術を同時にやる必要があります。
- 移植した歯が生着しない可能性があります。
- 移植歯が生着しても、数年で保存できなくなることがあります。
その他の治療の意義とリスク
歯冠切断(左上1番)
- 動揺が大きく、入れ歯の支えとしては不十分な状態でしたが、抜歯を回避するための方法として歯冠切断をし、根面板として利用することにしました。
- 神経のある歯だったため、便宜的に神経を取る必要がありました。
- 神経を取った歯は感染しやすくなります。
- 周りの歯ぐきが入れ歯で覆われるため、腫れるリスクが高まります。
- 歯の高さがないため、歯磨きが難しくなります。
- その部分から入れ歯が割れやすくなります。
下顎前歯部分矯正
- 元々の歯列不正および歯周病による歯の移動を改善させ、歯磨きのしやすい状態と適正な噛み合わせを付与する目的の治療です。
- 歯肉に炎症が残った状態で矯正治療を行うと、歯を支えている骨を失うことがあります。
- 矯正装置を装着している間は口内炎ができたり、歯磨きがしにくかったりします。
- 理想的に歯が動かない場合があります。
術後の写真3年後
パノラマ写真

移植歯、再生療法を行った歯に大きな問題はみられず、歯周組織検査においても安定した状態を推移しています。
また、術後3年と経過観察期間が短いため、今後も定期検診で状態を確認していく必要があります。
義歯未装着時

歯肉に炎症はなく、プラークコントロールも良好です。部分矯正した下顎の前歯は後戻りしないようにワイヤーで固定しています。
義歯装着時
所見
保険診療で製作した部分入れ歯のため、プラスチック製のため厚みがありますが、幸い発音に問題は生じていません。
ただし、強度が不足しているため将来的に破損のリスクがあります。
奥歯の数は左右で違い、非対称となっていますが、移植治療を用いることで下顎では部分入れ歯を回避することが可能となりました。
・移植(根の治療を含む) ¥110,000(税込)×2
・移植歯のクラウン ¥22,000(税込)×2
・再生療法 ¥110,000(税込)
・部分矯正治療 ¥110,000(税込)
・部分入れ歯 保険診療
・移植し以外のクラウン 保険診療