歯の中には歯髄(神経や血管)が通る管があります。この管を根管と呼びますが、この中をキレイな状態にしていく治療が根管治療です。
根管治療は神経が生きている状態で行う抜髄(バツズイ)処置と、神経が死んだ状態で行う感染根管治療の2パターンに分かれます。
実際に治療で使用する道具や薬剤に大きな違いはありませんが、病気の状態が異なるため、治療に対する考え方が違います。日本の歯科治療では感染根管治療が圧倒的に多いため、ここでは感染根管治療をメインにご説明します。
感染根管治療は歯髄壊死(神経が死んだ状態)した歯や過去に根管治療がなされた歯が対象となり
ます。
根管内で繁殖した細菌を除去する治療になりますが、放置すると細菌は顎の骨へと進行し、歯を抜くことになります。
感染根管治療が必要な歯の症状は:
抜髄が必要な歯では「歯」そのものが痛みを出しますが、感染根管治療が必要な歯では「歯」ではなく、「歯の周り」が痛みを出しているのです。
感染根管治療では膿んでいる部分にアプローチしているわけではありません。というのも、膿んでいる部分は歯を支えている骨の中なので、そこを触ることはできません。
では、治療では細菌の「巣」(病巣;びょうそう)になっている根管内の汚染物を除去しています。
除去する方法はファイルと呼ばれる専用の器具を用いてガリガリと機械的に削っていく方法(機械的洗浄)と次亜塩素酸ナトリウムというタンパク質分解作用のある洗浄液を用いて化学的に洗浄する方法(化学的洗浄)の2種類を併用していきます。治療後は次回の治療の際に外しやすい材料で蓋をします。
根管開放と言って根管からドクドクと膿が出てくる場合に行う方法です。ただ、膿はある程度出れば、それ以上には出てきませんので、基本的には膿が止まったら、根管の中を洗浄し、蓋をします。そして、抗生物質と鎮痛剤を処方します。
根管開放は痛みを取るためには有効な方法ですが、お口の中の細菌が根管の中に入り込んでしまいますので、根管治療が難しくなります。
感染根管治療では根管内の神経は無いため、根管内を触っているだけでは痛みません。しかし、処置中に歯が引っ張られる痛みや、汚染物が根管外(膿んでいる方)へ押し出されることによる痛み、患部に薬剤が触れる痛みを生じることがあります。処置前から痛みや腫れがある場合、当院では基本的に麻酔をして治療をしています。
治療後は患部を刺激する関係で2〜3日歯が浮いた感じや痛みを伴うことがあります。また、フレアアップと言って、治療前よりも歯ぐきが腫れて、強い痛みが生じることがあります。
歯ぐきが腫れている=膿が出ている状態のため、歯ぐきが腫れている状態で終わらせることはできません。
叩いて痛む歯では硬いものが噛めません。違和感は残ることがありますが、痛みがないことは重要なことです。回数をかけているのに痛みが取れない場合は治療の方針を再検討する必要があるでしょう。
感染根管治療では病巣を駆除すれば、膿んでいる部分は自身の免疫反応で治っていくのです。そのため、患者様の体調も感染根管治療の経過に大きく関与します。
ただし、膿んでしまった傷が治るのには時間がかかるのと同じように、病状によっては数ヶ月かけて経過観察をした後に根管治療を完了させることもあり
ます。
感染根管治療の成功率は様々な報告がありますが、平均70%程度です。成功率が90%以上とされる抜髄処置と比較すると大きく下回ります。つまり、一時的に症状が改善したとしても、再発する可能性が高いということです。
治療前のCT写真:根の先に約8mm大の透過像が認められ、感染根管治療が必要な状態でした。
一般的に感染根管治療は通院回数が多くなりがちです。特に再治療の場合、細かい部分にへばりついている材料を除去するのに時間が掛かるからです。
また、根管の数は歯によって異なります。奥歯では1本の歯で3〜4つの根管が存在することがあります。処置する箇所が多くなれば、それだけ時間もかかってしまいます。
根管治療はその他の治療と比較して難易度が高い治療の一つです。その理由は根管の中が見えないからです。根管は細く、曲がっていますので、マイクロスコープを用いても全てが見えるわけではありません。
難易度: 低い |
難易度: 高い |
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歯の 種類 |
前歯 | 奥歯 |
根管の 曲がり 具合 |
真っ直ぐ | 曲がっている |
根管の 太さ |
太い | 細い |
根管の 長さ |
短い | 長い |
根管の 分岐 |
なし | あり |
レントゲンで根の先に
レントゲン で根の先に |
影が確認 できない |
影が確認 できる |
感染根管治療は比較的時間を要する治療です。痛みが無くなったため、治療途中でご来院が途絶えてしまう方がいらっしゃいますが、長期間放置すると治療開始前よりも状態が悪化し、抜歯に至るケースもあります。
そうならないように治療開始前に歯の状態や治療の難易度、予想される治療期間についてご説明するよう心掛けていますが、ご不明な点がありましたら、お気軽にご質問ください。