10年ほど前に下顎の部分入れ歯を作ったが、この数ヶ月で急にものが噛めなくなったとのことを訴えてご来院されました。
ただ、入れ歯にしてからは食べるものに気を遣う日々を過ごしてきたため、残りの人生は食べたいものをたくさん食べたいとのことでした。
治療前 | 治療後 | |
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治療後 |
性別 | 女性 |
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年齢 | 80代 |
全身的既往歴 | 高血圧(服薬によりコントロールされている) |
治療に対する希望 | お墓にお金は持っていけないので、 多少お金がかかってもいいから何でも食べられるようになりたい! |
奥歯が伸びてしまい、入れ歯を作るために十分なスペースが不足していました。上と下で歯の数が大きく異なり、このまま入れ歯を作っても、下顎が噛む力に耐えきれず、治療に対する希望である「なんでも噛めるように」を達成することが困難であると予測しました。
上顎には12本の歯が残っていましたが、下顎には3本のみ。そして、左下の歯は入れ歯の安定のために磁性アタッチメント(磁石を用いた装置)が装着されていました。上顎の銀歯は適合が悪く、虫歯が進行している状態でした。
上下の入れ歯を装着した状態です。上下ともクラスプ(入れ歯のバネ)が見えてしまうため、見た目が良いとは言えません。下の入れ歯は奥歯の人工歯が削れて、真っ平らになっているため、咀嚼効率が低いことが想像されました。
長期に渡り、下顎のみ入れ歯を使用していた割には、下顎の骨に大きな問題は起こっていませんでした。左下の歯は根の状態が悪く、残すことが難しい状態でした。
型取りをし、模型を咬合器に装着し、より詳しく歯列の分析を行いました。問題のある箇所を赤表示しました。上顎は左右とも奥歯が正常な位置よりも伸びてしまっていました。
右上の前歯は下顎の歯の影響で削れてしまい、右下の前歯は唇側に倒れてしまっていました。
伸びている歯の多くはすでにクラウンが装着されているため、それらをやり直すことで歯並びを修正することとしました。下顎の歯ぐきを強くすることはできませんので、噛む力に対抗するためにはインプラントを利用することが得策だと考えました。
下記を説明した結果、1)のインプラントオーバーデンチャーで治療することで同意を得ました。
治療期間:9ヶ月
費用合計:3,080,000円(2023年4月時点)
※保険診療での費用は含まれません。
ジルコニアボンドクラウン&ブリッジ | 165,000円×8 |
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仮歯 | 5,500円×8 |
インプラント | 診断料 55,000円 埋入料 165,000円×3 2次手術 22,000円×3 アタッチメント 110,000円×3 |
インプラントオーバーデンチャー | 770,000円 |
治療を開始するにあたり、まずは歯並びの問題点を解消するような仮歯と仮入れ歯を製作しました。
上顎に装着されていたクラウンやブリッジを除去し、仮歯へ置き換えました。下顎には新しい仮入れ歯を装着しました。ここから、噛み合わせの安定を確認し、抜歯やインプラント治療へと移行していくこととしました。
使用中の入れ歯のデジタルデータとCTデータをマッチングさせて、インプラントの治療計画を立てます。
もし、将来的に右下の歯を抜歯することになっても、インプラントオーバーデンチャーを修理し、使い続けることができるインプラントの配置にしました。
下顎のインプラントオーバーデンチャーを装着した状態です。
噛む力で入れ歯が壊れないよう、金属を使用して強度を高めます。アタッチメントのパーツは劣化するため、数年に一度は交換が必要になります。
治療後のレントゲン写真です。
治療期間は9ヶ月を要しました。全顎を治療する症例としては比較的短いと言えますが、長期間に及ぶ治療は患者さまの負担になります。
当院で心掛けていることは、1)治療中でも不具合が少なく普通の生活が送れること、2)治療期間は1日でも短くなるような計画を立てることです。病状によっては年単位の期間が必要になることもありますが、その必要性をご理解いただけるようご説明した上で治療を開始するようにしています。
全ての治療に通ずることですが、治療が終了して、ようやくスタートラインに立つということです。やりっぱなしでは長持ちはしません。治療が終了し、しっかりとメンテナンスしていくことが重要です。
インプラント義歯について