虫歯が1ヶ月で突然できることってありますか?
また、その虫歯を1週間放っておいて大丈夫ですか?
数ヶ月前に歯がしみるところがあって歯医者に行きました。虫歯はないから知覚過敏だろうと言われ、知覚過敏にはレーザーを当ててもらい、また久しぶりの歯科受診だったので、歯石も取ってもらうことにしました。
今日、定期検診のクリーニングに行って、虫歯ができていると言われました。ちょっと削って詰めるだけで治ると言われたんですが、削らなきゃいけないような虫歯が1ヶ月でできるものなんでしょうか?
1ヶ月前にもクリーニングに行っているのですがその時に見つからなかったのが不思議です。
次回の予約は1週間後となりました。できればもっと早く治療して欲しいです。急に現れて要治療となった虫歯なのに、1週間も放っていたらどんどん進んで、削る範囲も大きくなってしまうのではないかと不安です。
結論から言えば、1ヶ月で虫歯はできます。数ヶ月前と今日との比較をし、虫歯の進行スピードを考慮して1週間後の治療でも問題ないと判断されたのだと思います。
今と昔では治療の対象となる虫歯の基準が変化していますので、ここでは現在の虫歯に対する考え方について詳しくご説明します。
虫歯とは虫歯菌によって作られた酸によって歯が溶かされる病気です。歯が溶けるとは歯に含まれるカルシウムなどのミネラル成分が流れ出てしまうことを意味しますが、これを「脱灰(だっかい)」と言います。
脱灰は虫歯菌が作る酸以外でも引き起こされ、実は食事の度に脱灰が生じているのです。食事の度に脱灰していたら、どんどん歯が溶けてしまうじゃないか!と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
歯は「再石灰化」と言って、お口の中のカルシウムなどのミネラル成分を取り込むでいます。通常の食事程度では脱灰と再石灰化のバランスは保たれますが、虫歯菌の影響が大きいと脱灰>>再石灰化となり、歯は溶けてしまいます。これが虫歯ということです。
では、1ヶ月で虫歯、つまり歯は脱灰してしまうか?ということに関しては程度の差はありますが、条件が重なれば脱灰します。ここで1994年に発表された論文(P Lingstrom et al. J Dent Res. 1994: 73(3))を紹介します。
研究では3つのグループで脱灰、つまり虫歯が3週間でできるかどうかを調べています。3つのグループとは、1)普通の食事に加えて発酵性炭水化物(でんぷん)を間食するグループ、2)普通の食事に加えて砂糖を含む食品を間食するグループ、3)普通の食事のみ(間食なし)のグループですが、1と2のグループでは脱灰、つまり虫歯が出来たとのことでした。
ここで重要なことは、たった3週間そいう短い期間で虫歯ができてしまうことがあること、また砂糖以外も虫歯の原因になるということです。
・脱灰>>再石灰化すると虫歯になる
・虫歯は3週間あればできてしまう
・砂糖以外に発酵性炭水化物(でんぷん)も虫歯の原因になる
歯の表面が脱灰をしただけで削って詰めていた時代があります。ただ、虫歯のメカニズムが明らかになってきたことにより、この考え方は現在では否定されています。
簡単に言ってしまえば、表面が脱灰したレベルの虫歯であれば、今は削らずに「再石灰化」を狙うことが虫歯治療になります。そう、すぐに削ったりしないのです。削らない虫歯治療では、ただ単に経過を見ているわけではありません。
削らない虫歯治療の対象となる虫歯は以下の3つになります。
1) 象牙質まで進行していない
エナメル質内だけの虫歯
2) 象牙質に進行しているが、その深さが浅く、穴が空いていない虫歯ここでいう深さが浅いとは、
象牙質の1/3程度までのものを指します。
3) 0.5mm以下の深さの歯根の虫歯
虫歯にはどんどん進行する「活動性の虫歯」と進行しない「非活動性の虫歯」があります。削らない虫歯治療とは、活動性の虫歯を非活動性に変えていくことなのです。
そんなことしないで、どんどん削って昔ながらの治療をした方が安心じゃないの?という意見を耳にすることがありますが、削って詰めたとしても、その隙間から2次的な虫歯ができてしまうことがあります。
そして、活動性の虫歯が多い方ではその確率が高いため、虫歯とのイタチごっこになることがほとんどです。
全ての虫歯を削らなくて良い、と言っているわけではありません。すぐに削らなければならない虫歯はありますが、削らなくても良い虫歯が存在することが明らかになっています。また、虫歯を非活動性にできる状態を達成しなければ、虫歯との戦いに終止符が打てないのです。
・虫歯は進行度合いによっては削る必要がない
・虫歯には進行する時期と進行しない時期がある
削らない虫歯治療では4つのアプローチをします。虫歯は生活習慣により生じる病気なので、糖尿病などの生活習慣病と同様に患者様ご自身に頑張っていただくことがメインになります。
虫歯は砂糖だけでなく発酵性炭水化物(でんぷんなど)が原因になりますが、主食を制限するわけにはいきませんので、炭水化物メインの食事ではなく、バランスの取れた食事を心がけましょう。また、間食や飲み物の摂取頻度もリスクになります。徹底した食生活の改善を行うのであれば、1日に摂取した飲食物とその時間を記録して、担当医に提出しましょう。
食事をするとお口の中は脱灰しやすい酸性になります。その時間が長いほど虫歯になりやすいのです。それを解消するのは唾液です。唾液は酸性に傾いたお口の中を中和してくれます。唾液は噛むことで分泌されますので、早食いをせずに、よく噛んで食べることが重要です。
虫歯は砂糖だけでなく発酵性炭水化物(でんぷんなど)が原因になりますが、主食を制限するわけにはいきませんので、炭水化物メインの食事ではなく、バランスの取れた食事を心がけましょう。また、間食や飲み物の摂取頻度もリスクになります。徹底した食生活の改善を行うのであれば、1日に摂取した飲食物とその時間を記録して、担当医に提出しましょう。
虫歯菌がいるから虫歯になることは否定しようもない事実です。虫歯ができやすい歯と歯の間の汚れは歯ブラシだけで取り去ることは困難です。フロスや歯間ブラシといった補助器具を使用して、汚れを取り去り、虫歯菌を減らすことが重要です。また、歯ブラシなどのセルフケアでは取りきれないバイオフィルム(非常に強固な細菌の塊)は歯科医院での定期的なクリーニングで落とすことが効果的です。
このように虫歯に対して、すぐに削るのではなく、温存療法が定着しつつあります。この療法の難しいところは、削る治療へ移行するタイミングです。そのため、全ての患者様に適応する方法ではなく、定期的に検診にいらっしゃっていただけることが前提になります。
→虫歯の予防について
・歯磨きだけでは虫歯を防ぐことはできない
・虫歯は食生活に密接な関係がある
このように虫歯に対する考え方は随分と変わりました。虫歯を削って詰めるは単なる対処療法です。もちろん、削らなければいけない虫歯はありますが、それだけでは虫歯を直すとは言えません。
しっかりと原因にアプローチして虫歯にならないこと、削らずにすむ虫歯であれば進行させないことも虫歯治療の一環と考えます。虫歯は感染症なので細菌の活動を抑えることができれば予防できる病気なのです。
定期的な検診で虫歯の状況をチェックし、削る治療が必要になったら早期治療することで重症化を防ぎましょう。