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CASE04 インプラントを戦略的に利用し咬合再構成を行った症例

インプラント・義歯(入れ歯)症例

基本情報
50代男性
初診日:2015年6月11日
主訴:歯が痛くて入れ歯ができない
全身的既往歴:特になし
歯の喪失理由:ペリオ・カリエス
その他:歯科恐怖症

 

所見
歯が痛くて入れ歯が入れられないことを主訴に来院されました。全身的には特記事項はありませんが、過去の歯科治療にて疼痛性ショックを経験し、それ以来、歯科に対して恐怖心があり、このような状態であったが、歯科医院より足が遠のいてしまったとのことでした。

初診時口腔内写真

義歯無し


不良補綴物やカリエスが多数認められます。またプラークコントロールも悪く、歯石の沈着、歯肉の腫脹・発赤も認められます。

切歯乳頭ならびに口蓋正中縫合より求められる顔面正中に対して、下唇小帯・舌小帯・舌側溝といった解剖学的ランドマークから導き出される下顎正中はやや左側に偏位していると思われます。

下顎の2〜2はCEJの不連続より歯の挺出が明らかです。また下顎右側2番から左側3番の歯茎線が高位に位置していることから、骨ごと挺出していることも明らかです。このように歯の位置異常が生じておりますが、その他の歯冠の大きさ・歯茎線の連続性、左下3番の咬耗度合いなどより、咬合高径の著しい低下は認められないものと判断しました。

義歯有り


見るからに貧素なパーシャルデンチャーが上顎のみに装着されていました。下顎義歯も7〜8年前に同時に製作したとのことですが、支台歯であった下顎右側5番ならびに左側4番が歯冠破折してから使用していないとのことでした。

初診時検査結果


ポケットチャートとデンタルです。中等度から重度な歯槽骨の吸収が認められ、全顎的に歯周ポケットも深く、動揺が認められました。

初診時パノラマ


下顎臼歯部の顎堤は吸収が少なく、十分な高さがありますが、その一方、上顎の欠損部顎堤は大きな骨吸収が認められます。
また、左右の下顎頭は、その位置に左右差が認められます。その運動が連動しておらず、左側において運動が阻害されていることが考えられます。ただし、視診・触診より開口障害や疼痛、関節雑音は認められませんでした。

課題

● 経済的制限
● 歯科恐怖症
● 咬合三角:崩壊レベル
● Eichner分類:B3
● 下顎位:左側へ偏位
● 咬合平面の乱れ
● 中等度〜重度歯周炎
● 根尖病変

 

治療計画立案に際して、患者は経済的な問題・歯科治療に対する恐怖があるため、外科的処置が最小限になるような治療を希望されました。よって、欠損補綴は義歯を用いて進めることとしました。私がパーシャルデンチャーでの治療計画を立案する上で重要視しているものとして、右の画像に示す咬合三角があります。横軸が残存歯数、縦軸が咬合支持数を表しており、どの欠損歯列でも図の三角形の中に収まります。ただし、親知らずやブリッジのポンティック、残根、インプラントは含めません。この三角形は4つのエリアに分けられており、それぞれのエリアで臨床的な特徴があります。
今回のケースは赤で示される崩壊レベルに属します。このエリアの特徴は残存歯が多いにも関わらず、咬合支持数が少ないため、咬合支持に参加していない歯が顎堤に対して悪影響を及ぼしやすく、難症例が多く見られるエリアです。また下顎位が左側に偏位していることや咬合平面が乱れていることから全顎的な咬合再構成が必要で、これらを考慮しながら、最終ゴールとなるパーシャルデンチャーの設計を考えました。

設計原則としての4項目

● 動かない 支台歯・顎提の保存、機能的考慮
● 壊れない 長期使用に耐えうる強度
● 汚さない 支台歯への予防学的考慮
● 気にならない 装着感・審美的配慮

1番目の動かないですが、支台歯と欠損部顎堤では機能時の垂直的変位量が10倍も異なりますので、義歯は機能時には当然動きます。ただし、その動きを最小限にすることがパーシャルデンチャーを機能させるためには重要であり、またそれにより支台歯への揺さぶりが減り、顎堤への過重負担も軽減されます。

2番目の壊れないですが、これは補綴物全てに共通することだと思います。

3番目の汚さないですが、パーシャルデンチャーを装着することで、プラークの停滞はしやすくなりますので、それを配慮した設計にすることが、支台歯のカリエス・ペリオのリスクを軽減させます。

4番目の気にならないですが、義歯は患者から受け入れらるデザインでなければいけません。動かなくするため・外れにくくするために、前歯に目立つクラスプを設定した義歯を患者が喜んで装着したいとは思ってくれません。

これらの原則を念頭に上下顎のイメージを作ります。

下顎は単純な両側遊離端欠損なので、教科書通りの設計で問題ないかと思います。
問題は上顎です。左上3番は保存不可のため、残存歯の配置が右側のみとなります。右側に強固な支台装置を設計しても、義歯は咀嚼時に左側へ大きく沈下します。
また支台歯に過剰な側方力が加わることが予測されます。そこで、上顎に対して、インプラントを併用し、義歯の動きを最小限にするパーシャルデンチャーの設計を勘案しました。

Treatment Plan

● #23、#31、#41、#42抜歯
● 治療用義歯装着
● 初期治療(ペリオ、エンド)
● 再評価
● インプラント埋入(左上)
● 最終補綴制作

左上3、右下1・2、左下1番は抜歯としました。治療用義歯を装着し、その後初期治療を開始します。右上6・4・2、右下5、左下4番は根管治療をし、三角で示しました歯は根面板としての利用を試みました。
再評価後に今一度計画を見直すこととしましたが、左上に2本のインプラントを埋入することを計画しました。治療用義歯を改変後、最終補綴物を製作することとしました。
なお、インプラントにはヒーリングアバットメントを装着していくこととしましたが、患者の満足度によっては、その他のアタッチメントへの変更を考慮していくこととしました。

インプラント埋入位置

歯周初期治療が終了し、右上の歯は保存可能であったため、計画通り左上に2本のインプラントを埋入していくこととしました。埋入位置については、天然歯での支持は右上6番の根面板、右上3番のシングラムレストがメインとなります。できるだけ大きな四角形でのサポートを得るため、左側は3番と7番への埋入が義歯の動きに対しては有利になります。

一方、咀嚼力を受け止めることに着目すると、ZACラインが一つの目安になります。ZACラインは矯正的に上顎6番の近心根付近が相当するとのことです。配列をし、ロウ義歯を装着して、CT撮影を行いました。

CT画像


それぞれの歯の位置でのクロスセクショナル画像です。3番では咬合平面に対して垂直に埋入すると、アタッチメントが口蓋側に位置することが予想されたため、また7番は骨が極めて薄く、サイナスリフトが必要であることから、それぞれの位置ではなく、4番と6番へ埋入することとしました。

オペレーション


CT撮影したロウ義歯より、サージカルステントを製作し、左上4番、6番部にインプラントを埋入いたしました。初期固定はありましたが、即時で負荷を加えることに怖さがあったため、2回法としました。
直径3,5mm、長さ9mm

最終補綴製作前


最終補綴製作前の治療用義歯装着時の口腔内写真です。咬合平面、咬合高径に問題がなく、また当初左側に偏位していた下顎位も是正されていました。インプラント部につきましては、ヒーリングアバットメントでも十分に患者の満足度が得られていたため、そのままの状態で最終補綴物を製作することとしました。

完成義歯


インプラント周囲は本来メタルタッチで処理した方が良いことは明らかですが、将来アタッチメントへの変更を考慮して、レジンでの処理としました。その他、残存歯の辺縁歯肉に接する部分はメタルタッチとなるよう設計をしました。また、クラウンに十分なガイドプレーンを設置することでクラスプによる維持は最小限としました。

義歯装着前


ヒーリングアバットメントはやや高さを持たせ、把持を有するようにしました。

義歯装着後1年


特に問題は生じておらず、良好な経過をたどっております。メンテナンスは3ヶ月ごととし、その際にはアバットメントの緩みがないかを毎回確認していますが、そちらに関しても問題がないことを確認しています。わずかな変化を見逃さずにメンテナンスを続けていきます。

所見

今症例で経験したimplant-supportedパーシャルデンチャーは経済的・外科的に制限がある患者に対して、一定の満足が得られる治療であることが明らかです。