インプラント症例
現在の治療費と異なる場合がございます。最新の治療費は料金表をご確認ください。
基本情報 |
50代女性 |
初診日:2017年12月4日 |
主訴:左上の歯が欠けた |
全身的既往歴:特記事項なし |
初診時口腔内写真
長年、歯のことで悩んできたものの、歯医者が怖くてなかなか通院を踏み切れなかったとのことでした。
歯ぐきの腫れ、古く・合わなくなったかぶせ物、歯を失った部分、虫歯と問題は山積していました。そして、顎の関節にも問題がありました。お口を大きく開けられない、長時間お口を開けていられない、と歯科治療が難しい状況です。
初診時検査結果
深い歯周ポケット、歯ぐきからの出血が認められました。
初診時パノラマ
パノラマレントゲン写真で全体像の把握をします。過去に多くの治療を受けていることがわかります。本来、歯は骨に支えられているものですが、その骨が失われている歯が多数見受けられます。また、左右の顎関節の動きが連動していないため、お口が開けられないこともわかります。
パノラマレントゲン写真で全体像の把握をします。過去に多くの治療を受けていることがわかります。本来、歯は骨に支えられているものですが、その骨が失われている歯が多数見受けられます。また、左右の顎関節の動きが連動していないため、お口が開けられないこともわかります。
かみ合わせ診査
本来噛みたい位置と今の歯並びで噛み合っている位置の差を記録します。
正常なかみ合わせとは、力を抜いて、口を開け閉めした時に全ての歯が同時に噛み合う状態のことです。一方、異常なかみ合わせとは、歯並びや過去の治療が原因で、顎を前後左右にズラさなければ歯がうまく噛み合わない状態のことを言います。噛むたびに顎をズラしていると、顎の関節に負担がかかり、顎関節に問題が生じることがあります。
顎がリラックスした状態でかみ合わせの記録を取る(左図)と、前歯しか噛んでいません(右図)。本症例では患者様は歯が噛み合うように顎を後ろに引きながら噛んでいたことが分かりました。
診査結果ならびに治療方針の決定
赤い×印は残すことが難しい歯、黄色い△印は治療次第で残すことが可能な歯です。多くの奥歯を失うことになるため、全体的な治療が必要になります。前歯のかぶせ物のやり直しや歯周病の治療も必要になります。
治療に対する患者様のご希望
● 前歯は残したい
● 入れ歯は嫌
治療の流れ
① 歯周病基本治療
歯石などを除去し、歯ぐきの炎症を軽減させます。
② 嚙み合わせの治療
スプリント(マウスピース)や仮歯を用いて、嚙み合わせの位置関係を確立させます。顎や今後製作するかぶせ物が安定的に機能するためにはかみ合わせが大変重要な要素となります。
③ 根管治療
細菌により感染している根の治療を行います。
④ 抜歯
残すことができない歯を抜きます。残せない歯が多数あり、一気に抜歯を行うと治療期間中に入れ歯を使わなければなりません。患者様と話し合った結果、入れ歯は使いたくないとのことから、治療期間は長くなりますが、段階的に抜歯することで治療期間中にも入れ歯を使わない計画としました。
⑤ 部分的矯正治療
理想的なかみ合わせに近づけるため、矯正治療により歯の位置を調整します。
⑥ インプラントなどの外科治療
前歯の歯ぐきの手術(歯冠長延長術)、骨造成・インプラントの埋入を段階的に行います。
⑦ クラウン・ブリッジ・インレーの製作
噛み合わせや歯ぐきが安定したことを確認して、最終的なクラウンやブリッジ(ジルコニアボンド・ジルコニアステイン)、セラミックインレーを製作します。 |
各治療のメリット・デメリット
|
メリット |
デメリット |
歯周基本治療 |
・歯ぐきの炎症を抑えることができる |
・炎症している歯ぐきが引き締まるので、歯根が露出して、染みるようになることがある |
スプリントによる噛み合わせの治療 |
・ 可逆的な治療なため、元の状態に戻すことが可能である |
・顎の症状が悪化することがある |
根管治療 |
・歯の中の感染物を除去することで歯の保存が可能となる |
・治療後は歯が破折するリスクが上がる
・再発するリスクがある |
抜歯 |
・感染源を確実に取り去ることができる |
・ 抜歯後は歯を補う治療が必要となる |
部分的矯正治療 |
・ガタガタな歯並びを解消することで歯磨きがしやすくなり、虫歯や歯周病のリスクを軽減できる |
・ 矯正装置を装着している間は歯磨きがしにくく、口内炎が出来やすい
・治療とともに歯ぐきが下がることがある |
歯冠長延長術 |
・患者様の希望である前歯を残すことが可能となる
・形態的にバランスの取れたクラウンを製作することが可能となる
・クラウンが外れにくくなる |
・骨に埋まっている根の部分が短くなるため、力学的に不利な状態になる
・グラグラすることがある |
骨造成 |
・理想的な位置にインプラントを埋入することが可能となる |
・通常のインプラント治療よりも外科的侵襲が大きく、体への負担が大きくなる
・術後感染を起こすと、術前よりも骨が減ってしまう
・2次的な歯ぐきの移植が必要になることがある
・治療期間がより長くなる |
インプラント |
・患者様の希望である入れ歯の回避が可能となる |
・外科手術が必要
・治療期間が長くなる
・歯磨きが天然歯よりも難しい |
ジルコニアボンド |
・天然歯のような綺麗な仕上がりになる |
・セラミックの部分が割れることがある |
ジルコニアステイン |
・強度があり、割れることがほぼない |
透明感がなく、審美的にはやや劣る
・削れにくいがゆえに、噛み合わせのチェックがその他のクラウンよりも必要になる |
セラミックインレー |
・透明感があり綺麗に仕上がる |
・割れることがある
・歯を削る量が多い
・術後に染みることがある |
スプリント製作
嚙みあわせの治療を行う場合、いきなり歯を削って、かみ合わせを変えることは基本的には行いません。理論的に正しいかみ合わせであっても、患者様がそれに順応できない場合があります。
もし、歯を削ってから、順応できないことが発覚したら大問題です。まずは噛む位置を補正するためにスプリント(マウスピース)を装着します。これは患者様自身が取り外し出来る装置になりますので、後戻りができる治療方法となります。
本症例では多くの歯がかぶせ物になっており、また見た目を気にされていたので、上の歯を仮歯に変えてから、下顎にスプリント(マウスピース)を装着しました。
かみ合わせを変えることで顎の関節に影響が出る場合がありますので、CT撮影を行い、その変化を確認します。
本症例では右側の関節は問題がありませんが、左側に問題がありました。
その後、2ヶ月間スプリントの調整を行い、噛む位置が安定し、口を開く量が増えたため、スプリントで設定した顎の位置で噛めるように下顎の歯にも仮歯を装着しました。
噛み合わせが安定したので、上下とも仮歯を装着しました。仮歯は外せるように装着するため、予期せぬときに外れることがあります。
また、強度が不足しているため割れたり削れたりすることがあります。
診断用ワックスアップ
顎の位置が決まったので、最終的なかぶせ物のイメージを患者様・技工士と共有するためにシミュレーションを行いました。上下のかみ合わせの関係より、上の歯が6番目の歯まで作ることとしました。
インプラントと歯周外科 治療プラン
① 前歯の歯冠長延長術
② 左下インプラント埋入および骨増生
③ 左上インプラント埋入および骨増生
④ 右上インプラント埋入およびサイナスリフト
⑤ 右下抜歯およびインプラント即時埋入
1、2、3は同日に行い、歯肉の治癒およびインプラントが骨結合するまで待ち、その後仮歯を装着。その後、4・5へと治療を進めることとしました。
上記で治療を行う場合、左右をそれぞれで治療を進めるため治療期間が長期にわたるデメリットがあります。ただし、両側を同時に進めるためには噛み合わせを安定させるために入れ歯を装着する必要がありますが、同意が得られなかったため、左右をそれぞれで進めることとしました。
GBRやサイなスリフトは外科的侵襲が高いため、大掛かりな手術の際は静脈内鎮静下で行うこととしました。
下顎のインプラント手術では下歯槽神経麻痺が生じるリスクがあります。サイナスリフトでは上顎洞粘膜が破れたり、術後に鼻血が出ることがあります。また、インプラントが上顎洞内に迷入することがあります。 |
上顎前歯の歯冠長延長術
術後を想定したテンプレートを製作し、その通りに切開をし、その後骨削除を行いました。
左上は骨増生量が多かったため、チタンメッシュを用いた手術になりました。奥側は術前の想定よりも骨が柔らかかったため、インプラントの埋入は1本のみとしました。
左下は計画通り2本のインプラントの埋入と骨増生を行いました。
インプラントの埋入位置は診断用ワックスアップした位置になるよう、専用のサージカルガイドを製作した上で手術を行いました。
1回目術後パノラマ
術後は必ずレントゲンを撮影し、埋入の位置関係の確認を行います。
GBRを行ったため、術後は痛みや腫れを伴うことがあります。
プロビジョナルレストレーション装着
診断用ワックスアップより製作したプロビジョナルレストレーションを装着しました。すでに埋入した左上5番と左下6・7番のインプラントにも装着しました。
材料は即時重合レジンのため、経年的に変色します。また、強度不足により削れたり割れたりすることがあります。外せるように弱い接着剤を使用しますので、予期せぬときに外れることがあります。
左上6番へのインプラント埋入
チタンメッシュを用いたGBRにて骨が造成されていたので、ここでは1回法でインプラントを埋入しました。そのため、2次手術の必要がありません。
右上6番へのインプラント埋入およびサイナスリフト
右上6番部には垂直的に5mm以上の骨を造成する必要があったため、サイナスリフトの必要がありました。ただし、既存骨が4mmあったため、インプラントの埋入も同時に行いました。
2回目術後パノラマ
右上6番にインプラントが埋入されました。サイナスリフトを行っため、術後には鼻出血の可能性があります。
今後の予定
① 左上6番への仮歯装着
② 右下臼歯の抜歯、インプラント埋入
③ 右上インプラントの2次手術、仮歯装着
④ 右下インプラント骨結合後に仮歯装着
⑤ 最終補綴装置の製作